「なあ、俺な、前からお前のこと……」
目の前にいる一氏ユウジは、ヘアバンドを少し下げてくちびるを尖らせ、わたしと目を合わせている。顔を真っ赤に染めた彼の口から紡がれる台詞の続きは、地球上に生きてる人間のほとんどが察することができるだろう。きっとわたしの顔も、一氏と同じ色なはず。自分の頬をかく彼が伸ばした左手、それに自分の右手を重ねたわたし――
という夢の途中で目が覚めた。これが今日の始まりだった。
「お前、それだいぶ恥ずかしいで」
若干照れながらも今日見た夢の話を隣の席の自称スピードスター忍足謙也に話せば、空気を盛大に噴き出したあと更に大笑いをいただいてしまった。机の下の彼の靴の上に自分のそれを重ねて、いつでも力を入れてもいい状態にすれば、謙也は焦ったように手を振った。
「いや、ちょっと何で踏もうとしてんねん。がおもろい夢見たから笑ったんやろ。っちゅーかユウジなん? ほんまにユウジなん? ユウジなん試合中たまに尻丸出しやで!」
止まることの知らないスピードスターの口から次々と生まれる言葉。ほんまうっさい、誰か財前くん連れてこい。
「丸出して。所詮男子の腰パンやろ」
「全然ちゃうわ! それにな、あいつうちのテニス部の金色小春とラブラブやしな」
どや!と言わんばかりの謙也の顔が、とてつもなくわたしをいらつかせた。丸出しの意味がわからない。尻丸出しって、何や。もしかしてパンツ丸出しの一氏なのだろうか。それにしても何なんだこのスピードスターは……。白石くんに助けてもらおうと教室を見渡す。あ、いたいた。
「なぁ白石く、ん……」
後ろのほうにある白石くんの席に狙いを定めて声をかければ、なぜかそこには今朝見た夢の彼がいて。
「何や? 今ユウジと話し中やからちょっと待っとってな」
「んあ、もう終わるで。白石サンキューな」
あ、あ、行ってしまう。あ、行った。
どうやら一氏は白石に話があったらしく、それを終えて教室から出ていってしまった。口をぽかんと開けているわたしを見た忍足謙也はわたしの阿呆面がとてもツボだったらしく、また盛大に噴き出した。こいつはいい加減足の小指をどこかにぶつけるべきだと思う。切実に。
「にしても」
瞬時に、痛がる謙也を想像をしていたら、突然わたしの頭上で聞こえる白石の声。顔を上げるとニヤニヤと笑う白石がいた。
「さんがユウジのこと好きやったとはな!」
意外やわ、と口角を上げることをやめない男子テニス部部長、白石蔵ノ介。ちょっと、どうして知ってるの、と言いたいがわたしの声は生まれることなく顔の熱だけがどんどん上がっていく。ばればれやっちゅー話や、と得意げに言う謙也にわたしは再び苛つきを覚えたので、冷静に奴の足を踏んでやった。

朝のおまけ
100706