面白いもん見せてあげます。天気のいい日曜日の朝、彼はわたしの家に上がるなり気だるそうにこの台詞を吐き出した。

「そんなつまらなそうな顔で言われても」
「ちょっと眠いだけですよ。ほら着替えて」
 彼は、コーヒーを飲んでいたわたしを寝室へと急かした。目的地も教えてくれないまま着替えろだなんて、何に着替えればいいのよ。適当にブラウスとスカートを穿いて戻れば、何か言いたそうな表情がわたしを迎えた。
「なに」
「…その格好はちょっと」
「いいでしょ、朝だし。出勤前ですって感じで」
「いや、でも」
 はっきりと言わない彼に、まるで起きたばかりの状態でコップの水をひっくり返した時のようなあの何ともいえない感情を覚えた。いらっときて、どうでもいい、そんな感じの。「じゃあどこに行くか教えて、ちゃんと仕度するから」とわたしが言えば彼は、あーうーなど身体のマイナス分を放出してうなだれた。
「なんていうか、戦場」
「は?」
「ちゃんといえば、小岩井さんち」
 そこらに置いてあったペンと、ゴミ箱に入っていたレシートを拾って彼は何かを描きはじめた。似顔絵のつもりだろう、髪の毛を4つに結んだ、おんなのこ。むむむ、下手すぎて性別がわからないが、
「わかった!なんとかちゃんでしょ」
「なんとかちゃんって……何も言えてないっすよ」
「いいの。じゃあスカートはやめる。わたし子供と全力で遊ぶ人だから」
 噂に聞いてたなんとかちゃんに、わたしは会いに行くらしい。聴いた話では彼とその子の仲は最悪のようで。「あのがき生意気なんすよ」などぶつぶつ言いながらも彼はすこしの笑みを浮かべていて、何だかんだで楽しみにしているみたいだった。彼の車に乗って、わたしたちは小岩井さんの家に向かう。車内で小岩井さんの女の子の話をする彼はすこしだけ活き活きしていた。これから例のなんとかちゃんを相手にする彼が見れるのだ。きっと、コーヒーしか入っていない胃も、目覚めたばかりの脳も喜ぶだろう。




  090411 カナリヤ・サンデー