「きっとね、ちゃんからいったらユウくん喜ぶでぇ!」
「えへ、そうかな。そうかな!」



 あー授業眠かったわ、とかしょうもないことを考えながら部室のドアを開けたら、けらけら笑う小春さんと顔を真赤にして小春さんの腕をぐいぐいひっぱるさんがいた。

「……なんかきもいっす」

 思ったことをぼそっと呟けば、二人は俺に気付いて目を細めた。掃除サボって早く部室に来たのが間違いだったのかもしれない。いや、間違いだったのだ。なんかきもい二人は素早く俺のところまで来て俺の腕をひっぱり、自分たちがさっきまでいたところまで連れて行った。座らされた俺は、今めっちゃ機嫌悪いですオーラを出してみたが、この空気が読めない先輩らには通用しなかった。

「光はどう、彼女からキスしてきたら引く?」

 まるで試合を観ているときのような真剣な顔をしているさんがいきなりこんなことを聞いてきたので、俺はいま目の前にいるさんに少し引いた。

「……別に。ていうかさん、俺おととい別れたの知ってますよね。わざとすか」
「引かないって小春! 本当なんだね!」
「せやから言うたやろ、男にとっては嬉しいものなんやでぇ」
「ありがとう小春、勇気出てきたよ」

 俺がせっかく答えてあげたのに、俺の訴えはあっさり無視されて二人はまた盛り上がってしまった。俺の左手首とさんの右手首を掴んだ小春さんは、キャーとか高い声を無理やり出して頬を染めた。べつに別れたこと引きずってへんしな、と心の中で強がってみた。くそ、こいつらあとで転べばええのに。
 この二人はいつまで恋愛相談室を開いているつもりだろうか。ちなみに今はどうやってユウジさんに愛を伝えるか、とか言っている。ここにずっといたら、確実に何かを吸い取られる。俺の第六感がそう告げた。
 その時、部室のドアが開いて今まさに話題に上っていた本人が顔を出した。小春さんを見た途端に顔は明るくなる俺の先輩。ここで彼女のさんを見て、と思えないのは仕方が無い。

「あっユウくん」
「あっユウジ」
「ユウジさん助けて」
「今日も部活や部活ーって、ちょお、に光! 何小春と楽しそうにしてんねん」

 違うやろ、そこは俺と小春さんに「おい眼鏡にピアス、俺の彼女に」とか言うところやん。
 なんて俺の想いもむなしく、ユウジさんは小春さんの両腕を取った。自由になった俺らの手首は虚しくだらりと下がった。言うたれや、と目で合図する俺と、言うたるわ、と目で決意し頷くさん。俺らは顔を見合わせて口を開かずに会話をした。

「ね、ユウジ。小春もいいけどさ、わたしだって構ってくれたっていいんじゃないかな」

 言った。なぜか標準弁でさんはユウジさんに日ごろの想いをぶちまけていた。ちらりと小春さんを見ると、細い目をさらに細めてうんうん頷いていた。きょとんとしたアホ面でユウジさんはさんを見つめ、わかったぞと言わんばかりの笑顔を向けた。

「なんやヤキモチか。は家で全力で構ってやるから、待っとけ」

 見てるこっちが苛々してきそうな笑顔と、部室の空気。小春さんはにやにやとさんを見つめ、さんは顔を真赤にしてユウジさんに飛びつく。なんだこの部室は。部室はこれから部活を始める者または部活を終えたものが集う場所ではないのか。この三人はこれから部活を行うのか。そんな風には見えない。

「光も入りたいんか? 残念やけど俺、塞がったわ」

 小春さんの手を握ったりさんを抱きとめたり忙しいユウジさんの一言に、つい大きな溜息を吐いてしまう。別に仲間外れが嫌とかそういうのではなく。キャラ違うしな。

「先輩らみたいなハッピーな頭になりたいっすわ」

 そんなこんなで、今日もこの三人を始め個性的なメンバーに何かを吸い取られながら四天宝寺中テニス部の活動が始まる。



100610