わたしの腕を掴んで離そうとしないユウジの表情はひどく曇っていた。半開きの口からはうめき声が聞こえてくるのではないかと思うほど。
 どうしてわたしが電気もつけないユウジの薄暗い部屋にいてユウジに泣かれているかと言うと、わたしの"浮気"が原因である。訂正するならユウジは泣きだしそうなだけで、浮気だってわたしからしてみれば全く浮気ではない。ユウジ以外の男と話をすることが、彼にとって"浮気"に分類されるのだ。たまったもんじゃない。
 だからわたしは今日も思ってもいないことを口に出す。ただ彼に謝る、ふりをする。

「もうしないよ、絶対」
「ほんまに?」
「うん。約束」


「俺、がおらんかったら息できひん」

 と、ユウジはベッドのシーツを睨んで呟いた。
 わたしはユウジに問い詰められるたびに息ができない。三週間前までの恋心は一体どこへ行ってしまったのだろう!どこかで迷子になっているのなら早く戻ってきてほしい。できることなら自分から迎えに行くというのに。
 

 ユウジの片手はベッドのやわらかいシーツを掴む。わたしと彼の視線を受けているそのシワが少しかわいそうに思えてくる。あまりにわたしがシーツをみつめるものだから、彼は不安そうな声で「なあ」とわたしに呼びかけた。
 低く掠れていて今にも消えてしまいそうな声が、わたしの耳からすり抜けていってしまう。頭の中には入らない。からっぽの頭をなんとか動かして、小さな声で謝ってみた。自分の声すらすり抜ける。

 そしてユウジは噛みつくようにわたしにキスをする。彼の思いがぶつかってくるような、重いキスだった。