昨日の夕方、兄貴が家に連れてきた彼女が意外と俺の好みで参ってしまった。ちょうど俺が出かけようと玄関のドアを開けたら二人が来たので、すれ違いざまによく見てしまった。きっと俺よりも15センチほど低い身長と、小花柄のワンピース、あまり濃くない化粧が印象的だった。
なんや、兄貴もオトコやったんか。
「で?」
「に慰めてもらおう思って」
俺の目の前にいるは、部員の誰かが105円で買ってきたぺらぺらのクッションを抱きしめ呆然としていた。一瞬だけ沈黙が流れる空気がすこし疑問だった。何この空気。すぐにはでかい溜息を吐いた。
「ユウジの彼女って誰」
「そんなん、に決まっとるやん」
「……豆腐の角、または銀さんの波動球コースな」
はあ?と思わず問い返した。どんな死刑やねん。
「波動球とか痛すぎやん!」
「ユウジがアホなこと言うのが悪い」
「アホなことってなんやねん、彼女に慰めてもらうことのどこが悪いんや」
兄貴にあんな可愛い彼女ができるなんて考えたこともなかったから俺は少しショックを受けていた。兄貴は恋愛よりも勉強に勤しんでいたから、そういった類はまったく興味がないものだと俺は勝手に決め付けていたようだ。
「もう知らん! ユウジなんてお兄ちゃんの彼女に告白して振られとけ!」
「は? 何いきなり訳解らんこと……」
の、涙で潤んでる瞳が俺を見つめる。こいつこんな顔もかわええな、と思うと同時に閃いた。いま絶対俺の頭の上では電球がピカーンと光っていることだろう。
「お前それ、ヤキモチやん」
せや、これヤキモチやんな!俺はジグソーパズルが完成したときのようなすっきりした気持ちになった。はひとりで慌てはじめて、顔を赤くしてしまった。
「そ、そんなんちゃうもん」
「いやー、にヤキモチ妬かれるとか初めてやん。っちゅーか別に俺、兄貴の彼女にときめいたわけちゃうで。兄貴もやるやん、思うて。あー、よう上手く言われへん」
あかん、俺ちょっと嬉しいわ。嬉しくて頭と口が回らん。あとで小春に報告や。
ひとりで浮かれていたその瞬間、小躍りを始めている心臓をわしづかみにされた気がした。それは包帯を巻かれた誰かの左手によって。
「二人とも。仲良いのはええねんけどな、あそこに沸点低いのおるからそろっとお仕舞いや。あとそのクッション、朝に金ちゃんがよだれ垂らしとったで」
白石のお叱りのあとに部室を見渡すと、誰か殴らないと気が済まないんじゃないかっていうほど恐ろしいオーラを出している光がいた。うわ、と呟いて目が合う前にこっちから逸らしてやった。
それにしてもがヤキモチかあ、としみじみ思っていたらどうも顔がにやけてしまっていたらしく、と光に「キモイ」と言われてしまった。
お……お前ら、俺のハートはうっすいうっすいガラス製やで!
100712