時刻は午後5時半。ドラマの再放送を見ることなく四天宝寺中のテニスコートを見つめるわたし。視線の先には緑色のバンダナをした一氏ユウジの姿。ふと誰かの視線を感じ、彼から目を逸らすとすぐ近くでわたしに嫌な笑みを浮かべている忍足謙也がいた。あ、ほ。謙也の唇がそう動いた気がした。馬鹿、と呟いて視線を元に戻す。

 あまり高くない身長、良いとは言えない目つき、すぐに尖ってしまう唇、女の子には冷たい態度。どこがええの?と友達に聞かれてしまうことは無きにしも非ず。どこがって全部に決まってる。あのバンダナから覗く鋭い眼で見つめられたら、きっと心臓を持っていかれてしまう。

『でも一氏くんって小春ちゃんのこと好きとちゃうん?』

 よみがえる友人の台詞。そう、問題はそこ。そこや。今わたしが脳内を桃色に染め上げている最中、彼は愛しの小春ちゃんと仲良くテニスをしているのだ。仲良しレベルは、ただ学年が同じで白石くんのクラスメイト・謙也の友達というポジションのわたしが入る隙のない高度なもの。それに加え一氏ユウジは女が嫌いだ。女子が大嫌いだ。わたしは彼に問い詰めたい。いい香りがしてふわふわやわらかい女がどうして嫌いなんだ!ぱっちりかわいい女の子も、さっぱりボーイッシュな女の子も彼は寄せ付けない。どうして、どうしてなの一氏ユウジ!
 勝手にヒートアップして白石くんファンの友達の二の腕をつまんでしまった。そんなわたしを見て笑う謙也は無視しているが、次の瞬間とんでもないものを見てしまった。
 謙也が、自称スピードスター謙也が一氏の肩を叩いてわたしを指差したのだ。うそ、と小さく漏らしているわたしなんて気にせず謙也は一氏に何か話しかけている。わたしのほうを見ながら。
 その後すぐに練習に戻る二人をぼうっと見ながら、わたしの頭の中はやはり一氏でいっぱいになった。隣の友達が「謙也くんもユウジくんも黙ってればかっこええのに」とため息交じりに呟いたのをしっかりキャッチしながら。



 その日の夜、髪を乾かしているときに携帯電話が知らないアドレスをサブ画面に映した。誰かがアドレスを変えたのだろうと思い、スキンケアもすべて完了させ携帯電話を開いた瞬間、10分前の自分の頭を叩いてやりたくなった。登録していないアドレスは一氏ユウジのもので、わたしが一氏とメールしたがっていることを謙也から聞き、謙也からわたしのアドレス教えてもらったとかそういったことが書いてあった。
 余計なことを、と思ったのは一瞬だけで、謙也に感謝する日が来るなんて、考えたことがなかった!自然と頬がゆるくなるのを感じながら、わたしは携帯電話のボタンを押していくのだ。
 それから数回メールのやり取りをしていくうちにわかったことがあった。一氏ユウジの中でわたしはただの女子という位置にいるのではなく、謙也の友達として認識されているようだ。もし、彼の嫌いな女子という分け方をされていたら今こうやって一人で笑みながらメールを打っていることも無いということだ。ひとり、ベッドへダイブして転がった。




100709