夢を見た。いつものように女子寮の部屋に帰ったら、どこで調理したのだろうか、ロールキャベツが入った白い鍋を持ち、赤いエプロンを身につけた堂上教官がいた。その人は私から目をそらして、「べ、別にお前のために作ったんじゃないからな!」と言うのだ。目を覚ました私は寝汗をかいていた。

「……きっと疲れているのだろう。今日は早く眠るといい」
「堂上が……エプロン!」
 夢の中のあの表情はどこへ行ってしまったのだろうか、目の前に座っている堂上教官は眉間にしわを寄せてため息を吐いた。その少し後ろには、くすくす笑っていた小牧教官がついに手を叩いて笑ってしまった。違和感がないほど似合っていたのに。思い出すだけで口元が緩む。
「お前はそれを言うためにわざわざ来たのか」
 とコーヒーを飲みながら教官は言う。いいえ差し入れを持ってきました、と言ってお茶でも出せればいいのだが、図星だ。
「でも、すごくお似合いでした」
「"でも"とは何だ。"でも"とは」
「嫌がっていたみたいなので。きっと小牧教官とか手塚とかより似合うと思います!」
「も、もういい!」
 褒めすぎてしまったのか、少し耳を紅く染めてしまった教官が可愛らしかった。喋りすぎてしまったのだろうか、「お前の持ち場はここじゃないだろ」だの「早く戻ったらどうなんだ」だの外野の、もちろん手塚の声なのだが、私の一日がんばるための充電時間に邪魔が入ったので戻ることにした。わざと手塚を睨んで部屋を出ようとしたら、「」と教官に呼び止められる。くるりと後ろを向けば、ああ、夢で見たような角度と表情。

「エプロンは別として、飯を作るのは嫌いじゃない。……今度作ってやってもいい」
 自然と明るくなる私の顔を、絶望的な手塚の顔。あまりの嬉しさにもう一度教官のもとへ行こうと早歩きで進んだら後ろから、嫉妬心丸出しの教官大好き男に両肩を掴まれ阻止された。そいつに半ば強制的に追い出され、隠しきれない頬のほころびと共に、今日が始まる。




090909